「感謝しかない」という表現について、感じたことや考えたことを書きます。
「しか」を含む新しいことばづかいといえば、ほかにも「〜しか勝たん」などが挙げられます。こちらは「くだけた若者ことばの域を出ない(使用される場面が限定的)」という扱いを受けている気がします。
それに対して「感謝しかない・感謝しかありません」は記者会見やインタビューでも用いられた実績があり、フォーマルなコミュニケーションの手段として登りつめた(?)点がたいへん興味深いので、ここで取り上げます。
「感謝しかない」を使うデメリット
筆者は「感謝しかない」という表現を使いません。また、改まった場面にふさわしい表現だとも考えていません。
流行語=軽薄・俗っぽい印象をもたらす
「〜(名詞)しかない」という表現は流行語と化し、重みやオリジナリティが損なわれてしまったように感じます(例:「違和感しかない」)。聞き手に「考えなしに口走っているのではないか」「本心ではないのだろう」と思わせたくないので使いません。
「〜しかない」は乏しさ・諦めの表現
「〜しかない」と聞くと、筆者はまずはじめに、乏しさや諦めを含む否定的なニュアンスを感じ取ります。「たったこれだけで、ほかにはなにも持っていない」「ほかに手段がないから仕方なくそうする」というようなイメージです(例:「千円札しかない」「もう帰るしかない」)。
この消極的なニュアンスは、感謝の気持ちに似つかわしくないと感じます。
使用者の意図を想像してみる
流行りものには広く受け入れられるだけのおもしろみがあるはずなので、「感謝しかない」のねらいや魅力も想像してみました。
強い、短い、口がきもちいい
- 「感謝のほかにはなにもない→感謝でいっぱい」、「感謝することしかできない→身に余る恩、光栄」みたいな連想をしている
- 「しかない」が強い限定・否定のニュアンスを持つからこそ、「感謝」を強調する効果も大きい
- 短いので記憶に残りやすい
- 「ai」の音で終わるので、口がきもちいい
まとめると、シンプルでインパクトがあるから使いやすいといったところでしょうか。
「〜しか勝たん」との違い
「感謝しかない」ほど浸透していない流行語である「〜しか勝たん」との違いは、言わんとすることはほとんどだれにでも伝わるところだと思います。好き嫌いは分かれるものの、「感謝しかない」という表現を通してなにを伝えたいのかは読み取れますからね。
筆者は「感謝しかない」ユーザーではありませんが、「これは流行るわ」と素直に感心するおのれに気づきつつもあります。
筆者が「感謝しかない」を使わない理由
「感謝しかない」の意図も長所も想像してみましたが、やはりみずから口にすることはありません。
「感謝しかない」の言い換え表現
- 感謝の気持ちでいっぱい
- 感謝の念に堪えない
- 感謝してもしきれない
上のように、誤解の余地がないストレートな表現がすでに存在するので、そちらを使ったほうが円滑にしゃべれるんじゃないかな、と思います(とりわけ改まった場面では)。あえて「感謝しかない」を選ぶ理由が見当たりません。
感謝しかなくない
筆者が「感謝しかない」を使わない最大の理由は、誤解や誤用を避けるためというより、単に「感謝”しかない”」と感じた経験がないからです。いろんな気持ちがあるというわけです。
反対に、「感謝しかない」を使う人は、「今のこの気持ちは『感謝しかない』としか言い表わしようがない」「『感謝しかない』しかないんだ」という運命的な出会いを経験したのかもしれません。